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デンマーク ロラン島

ロラン島 R水素シフトのタイムライン
1980年代 主力産業だった造船業が衰退して経済状況が悪化
1990年代中頃 環境エネルギー関連企業の誘致を開始
2003年 風力発電機72基を有するロドサン海上風力発電パークが完成余剰電力を利用した水素コミュニティーの実証実験開始
2007年 ロラン市で「ロランCTF 地域共同体実験施設」が発足デモ水素プラントと燃料電池が稼働を開始
フレデリクスハウンに次ぎ国内で2番目の環境自治体に
2008年 フェーズⅡ開始ヴェステンコウに水の電気分解施設と水素タンク、一般家庭5軒にミクロCHP(家庭用燃料電池)システムを設置
2009年 再生可能エネルギーと水素システムの体験学習施設「H2インターアクション」オープン
2012年 さらに35〜40軒の一般家庭にミクロCHPシステムを導入し、 世界初の水素コミュニティが誕生

2010年現在、世界一幸せな国(※)、デンマーク南部に位置する人口7万人のロラン島ではすでに、R水素社会の雛形が完成している。
しくみはこうだ。

ロラン島概念図
ロラン島イメージ図



風の力でつくった電気を利用して水を電気分解し、水素を生産。パイプラインで家庭に供給すると、各家庭に設置された燃料電池システムが水素と酸素から電力と熱を生み出し、日々の暮らしで使う電気や温水をまかなう。

「風」という一次エネルギーを取り込む”風上”から各家庭で使用する”風下”にいたるプロセスで、汚染物質や温室効果ガスを排出せず、枯渇のリスクもない、スマートなエネルギー供給の実例だ。特に注目すべきなのは、こういった好例が登場するまでのスピード。環境エネルギーに政策の力点を置き始めてからわずか15年ほどで、生活者の誰にとってもわかりやすく、目に見えるかたちで「エネルギー」という言葉の定義が化石燃料から自然のエレメントへと変容しつつある。この好例をロールモデルとし、世界中に拡げていく鍵はどこにあるのか?上に紹介したロラン島の歩みを3つの観点からひも解いてみた。

1 地域に恩恵をもたらす産業構造改革
2 デンマーク政府の国づくりのビジョン
3 市民の柔軟で敏感な社会意識とDIY体質

1. 地域に恩恵をもたらす産業構造改革

ロラン島では再生可能エネルギー産業を育成したことで、一時は20%に達していた失業率が、4%程度にまで改善した。廃業した造船所の跡地に風力発電事業を行うヴェスタス社を誘致。同市にとって再生可能エネルギーは、環境問題が表面化した化石燃料エネルギーへの対処ではなく、地域経済を活性化し地域を豊かにするための施策である。オバマ大統領が打ち出したグリーン・ニューディール政策を始め、今でこそ世界各国で環境インフラへの投資が加速しているが、ロラン島は世界に先駆けて、20年も前に産業構造のエコシフトを決断したことになる。

地域で富を循環させるローカルなしくみづくりも注目に値する。風力発電プロジェクトへの融資は地元の銀行が担うこととし、8年で回収できる電力の買い取り制度を制定して投資を促進。政府の後押しを受けた住民は、自己所有する遊休地に風車を建てるようになり、今では500基に達する風力発電機のうち、約半数を島の住民が所有している。この500基による総発電量は島の電力需要の1.5倍に相当する106万8518Mwh(2004年 出典1)。電力に対して支払われる対価は、住民の生活を潤す。


地元住民の理解を得てプロジェクトを進めやすいしくみであることは、疑う余地がない。

そして、こういった実績が、さらなる投資と技術を呼び込む布石に。2007年1月にロランCTF(Community Test Facilities/地域共同体実験施設)が発足。デンマーク国内外の研究機関、企業、大学などに対して、島全体を最先端の環境テクノロジーの巨大な実証施設として開放し、さらなる発展を続けている。

2.デンマーク政府の国づくりのビジョン

ロラン島在住の環境ジャーナリストニールセン北村朋子氏は、このような展開を可能にした理由のひとつに、デンマーク政府の明確な国づくりビジョンが挙げる。「デンマークでは、『国は国民に対しておいしくて新鮮な水と空気、食料とエネルギーを約束しなければならない』という軸が、政治家が変わってもぶれない」のだという。

旧産業である造船業が衰退し、失業率が20%にまで悪化した80年代、世界じゅうから熱い視線が注がれていたのはIT産業だった。ところがロラン市は、EU白書に着目。EU参加国に対して、再生可能エネルギーでのエネルギー自給を指南する一節を取り上げ、「今始めておけば10年後に取り組む国や自治体が増えたときにノウハウを提供できる」と、グリーンエネルギー企業の誘致に舵を切ったのだ。その決断の奥には、デンマーク政府のビジョンに通じる「おいしくて新鮮な水と空気と食料とエネルギー」を大切にするDNAが流れているといえよう。

補足だが、ロラン島の勝因はこれだけではない。コラム「R水素社会は島(コミュニティ)から始まる」にもあるように、コミュニティが小さい方が、政治、行政、民間が連携しやすいことも、理由のひとつ。

そこで次は、R水素社会への移行プロセスにおいて市民が果たした役割に言及したい


3. 市民の柔軟で敏感な意識とDIY体質

前出のニールセン氏は、デンマーク人の国民性を「新しいことに対して柔軟で、まずは自分でやってみようとする」と評する。この気質が顕著だったのは、1985年の非原発宣言後のこと。原子力に頼らずに必要なエネルギーをまかなうため、政府や自治体は国民に対して「糞尿の発酵でメタンガスができる」といった代替エネルギーについての基本的な情報を流した。国民は敏感に反応し、家庭レベルでバイオガスシステムを実験的に実施。「知り合いに鍛冶屋もいるし、やってみたら簡単にうまくいったし、国もこれでいいと言っているからOK、という感じで、草の根的な広がりを見せた」という。新しい技術に対して、「得体が知れず不安」という懐疑心よりも、「環境にいいのなら自分たちのために取り入れたい」と考える積極的でポジティブなマインドは、2008年にスタートした水素プロジェクト(フェーズⅡ)実現の原動力となった。

ヴェステンコウで実証実験中の水素供給システムでは、町なかに設置された水素タンクから一般家庭に、パイプラインを使って水素を運んでいる。このパイプラインの仕様はごく一般的なもの。漏洩の危険性については、自治体が市民の理解を得て1年かけて調査し、「仮に漏洩してもすぐに上昇するので爆発の可能性は低い」と判断した上で稼働開始に踏み切った。水素には金属を脆弱化させる性質があり、パイプラインが自然劣化して穴があくリスクが他の気体と比較して高い。水素を貯蔵する上での技術的ネックのひとつとなっている。ところがロラン島の市民の間からは、そのことを理由に実験開始に待ったをかける声は聞かれないという。

左が燃料電池、右が温水タンク

左が燃料電池、右が温水タンク

ヴェステンスコウの町に設置してある電気分解装置

ヴェステンスコウの町に設置してある電気分解装置



グローバル資本主義経済がほころびを見せた世界不況のただなかにある今、ロラン島の事例に学ぶことは少なくない。有権者であり消費者である私たち市民ひとりひとりが、これまで政府や大企業に委ねてきたエネルギー供給方法の「選択」を、「自らの手で行う」という意思を持つこと。どのような産業が次世代にとって必要かを考えること。自分がいいと思う政策を進めようとする政治家に投票すること。新しい技術をウェルカム・マインドで迎えること。

個人ができることはたくさんある。

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出典:ロランCTF
[ロラン島水素プロジェクト 関連情報]
・燃料電池は、IRD社製を採用
・水素発生装置と水素タンクはBaSS Anette Greenfort社製を採用
・2008年 民主党参議院議員 ミカヅキ タイゾウ氏と研究グループがロラン島を視察
・水素プロジェクトを主導したのは、市の環境チームリーダーであるレオ・クリステンセン氏

※デンマーク国民の労働時間は週37時間。2008年米国政府が出資する研究機関ワールド・バリューズ・サーベイ(世界の価値観調査)の調査によれば、国民の幸福感や生活満足度でデンマークは世界第1位となっている。日本は43位。


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